2026年9月10日、消費者庁が特商法の改正に向けた中間取りまとめを公表しました。内容がまとまったのは9月2日の有識者会議で、文書の日付は公表と同じ9月10日です。特商法 改正というと「ダークパターン規制」ばかりが話題になりますが、中身はもっと広い範囲に及びます。SNSのチャット勧誘、誇大広告の削除要請、解約手続そのものへの行政処分。EC事業者が備えるべき論点を、広告・契約・解約の3段階で整理します。
2026年9月2日にとりまとめられた中間報告書とは何か

案が最初に出たのは2026年8月24日、デジタル取引・特定商取引法等検討会の第8回会合です。委員から修正を求める意見が相次いだため事務局が手を入れ、2026年9月2日の第9回会合で中間報告書としてとりまとめられました。案の段階は終わっています。テーマは、消費者をだますようなウェブサイトやアプリの設計、いわゆるダークパターンを包括的に規制することです。中間報告書は、これまで誇大広告など一部の手法しか取り締まれなかったものを、特商法を改正して包括的に取り締まる方針を明記しました。規制の範囲は広告の表示だけにとどまりません。最終確認画面、注文後のアップセル、解約手続きにまで及びます。違反した事業者には行政処分を検討するとされています。
時間軸は2段階で固まりました。違反にあたる表示の中身は下位の法令とガイドラインで示すことになっており、その最終的な議論を年内に検討会でまとめます。そのうえで、2027年の通常国会に特商法の改正案などの関連法案を出すことを目指します。規制の対象は悪質な取引に絞り、事業者が何をすると処分されるのかをあらかじめ読めるようにする方向も示されています。
もう1つ、事業者がすぐに使える予定があります。公表の当日、消費者庁の堀井長官は記者会見で、この中間取りまとめについて広く国民から意見をもらいたいと述べました。準備が整い次第、パブリック・コメントを実施するという表明です。開始日も締切も、まだ出ていません。パブリック・コメントは、条文になる前の段階で事業者が意見を出せる、数少ない機会です。会見の発言は長官記者会見の要旨に載っています。広告・契約・解約の3段階で自社の画面を見ておけば、窓口が開いたときに、実務の側から見た困りごとをそのまま書けます。
「まだ案の段階でしょう」と思われるかもしれません。ただ、中間報告書は法案の骨格になる文書です。ここに書かれた方向性が、そのまま条文や下位法令の議論の出発点になります。
もう一点、押さえておきたいのが対象範囲の広さです。報道ではダークパターンが前面に出ていますが、中間報告書にはSNSのチャット勧誘への規律、誇大広告への対応、解約手続に関する行政処分の新設も含まれます。「うちはダークパターンなんて使っていない」で読み飛ばすと、別のところで足をすくわれます。
議論が加速した背景も押さえておきましょう。一般社団法人ダークパターン対策協会は、国内の被害額が年間最大で約3兆2千億円に及ぶ可能性があると推計しています。同協会は2025年10月15日から、人をだましていないデザインを第三者が認めるNDD認定(Non-Deceptive Design)の運用も始めました。法規制より先に民間が動いている、ということです(ダークパターン対策協会)。
検討会の資料は消費者庁のサイトで公開されています。
報道でも取り上げられました。資料と記事は次のとおりです。
規制のつくり方が変わる|法律は包括的に、細部はガイドラインで

今回の中間報告書で、実務にいちばん効いてくるのは規制の作り方です。法律の条文には一定程度包括的な基準だけを置き、具体的な線引きは下位法令やガイドラインに委ねる。そこで「違法なパターン(ブラックリスト)」と、適法とされるパターンを示す。そういう組み立てが想定されています。
なぜこの形にするのか。手口が変わるからです。ダークパターンと呼ばれる表示や導線は、規制されるたびに形を変えます。条文に細かく書き込むと、そのたびに法改正が必要になる。ガイドラインで示す方式なら、法改正を待たずに追いかけられます。
事業者から見ると、これは負担の性質が変わることを意味します。「条文に書いていないからセーフ」という読み方が通用しにくくなるからです。もっとも、2026年9月10日時点で、政省令もガイドラインもまだ存在しません。いま公開されている中間報告書の3カテゴリを手がかりに、自社の画面を点検しておくのが現実的な備え方になります。
規律対象として想定される3つのカテゴリ

中間報告書では、規律の対象として3つのカテゴリが想定されています。自社の画面に当てはめて読むと、輪郭が見えてきます。
| カテゴリ | 想定されている内容 |
|---|---|
| 核心的条件の不明瞭表示 | 金額・違約金・分量・期間について、一般の消費者が読み取れない、あるいは事実と違う表示 |
| 取引判断に影響する情報の虚偽表示 | 口コミ、利用状況、在庫情報、タイムセールなどについての虚偽の表示 |
| 攻撃的表示 | 操作を繰り返させる、威迫的な文言を使うなどして消費者を困惑・不安にさせ、申込みや契約締結を迫るUI |
1つ目の「核心的条件の不明瞭表示」は、心当たりが出やすいところでしょう。初回だけ安い定期購入で、2回目以降の金額や解約条件が小さな文字で下に置かれている。こうした画面は、中間報告書で指摘されている類型に該当するおそれがあります。
2つ目は、口コミや在庫、セール表示の偽装です。「残り3点」と出しているのに在庫が減っていない、終了時刻を過ぎるとタイマーが自動的にリセットされる。事実と違うのであれば、取引判断に影響する情報の虚偽表示に当たるおそれがあります。
3つ目の「攻撃的表示」は、耳慣れない言い方かもしれません。解約ボタンを押すたびに引き止め画面が出て同じ操作を繰り返させる、「本当に損をしてもいいのですか」と不安をあおる文言で申込みを迫る。そうしたUIが念頭に置かれています。
第1段階|広告での備えと誇大広告のプラットフォーム削除要請

備える順序としては、まず広告からです。広告はいちばん外側にあり、消費者が最初に触れる面だからです。ここで誤解を与えると、その後の契約画面をいくら整えても信頼は戻りません。
中間報告書には、誇大広告への新しい打ち手も盛り込まれました。行政処分の後も広告がネット上に残り続ける問題への対応です。プラットフォームに対して、広告の削除やアカウントの停止を要請できる制度を法定化する方向が示されています。
これまでは処分を受けても掲載面が生き残ることがありました。制度が入れば、掲載面そのものが止まります。広告アカウントの停止は、売上の入口が閉じるということです。
広告場面での作業は、次の3点から始めるとよいでしょう。
- 価格表示の点検。総額、初回と2回目以降の差、送料や手数料が一目で読めるか
- 口コミ・在庫・タイムセール表示の裏取り。表示が実態と一致しているか記録を残す
- 広告クリエイティブと遷移先ページの整合。広告で言っている条件が着地ページと食い違っていないか
第2段階|契約での備えとSNSチャット勧誘の新しい規律

次が契約の段階です。ここで軸になるのが、現行の特定商取引法12条の6が定める最終確認画面です。通信販売で申込みの確定ボタンを押す直前に表示される画面のことで、分量、販売価格・対価、支払時期と方法、引渡・提供時期、申込みの撤回・解除に関する事項、申込期間の定めがあるときはその内容を表示することが求められています。
すでにある義務ですから、まずは自社の最終確認画面がこの6項目を満たしているかを確かめてください。表示しているかどうかだけでなく、読めるかどうかまで踏み込んでください。折りたたみの中に入れている、色を薄くしている、スクロールしないと見えない。こうした置き方は、核心的条件の不明瞭表示として指摘されるおそれがあります。
契約段階でもう一つ大きいのが、SNSのチャットを使った勧誘への規律です。この種の相談は2024年に約9,000件で、10年で約20倍に増えています。中間報告書では、次の内容を義務付けるべきだと整理されました。
- 勧誘目的であることを、事前に明らかにすること
- 書面を受け取った日から8日間のクーリング・オフ
- 事実と違うことを告げられた場合などの取消権
- 通常必要な分量を著しく超える販売についての解除権
SNSのダイレクトメッセージやチャットで見込み客とやり取りしている事業者は、早めに確認しておくとよいでしょう。「まずは友達として話しかける」手法は、勧誘目的の事前明示という考え方と正面からぶつかります。消費者トラブルの相談事例は国民生活センターのサイトで公開されています。
第3段階|解約での備えと行政処分・罰則の方向性
3段階目が解約です。順序は最後ですが、重要度が低いわけではありません。中間報告書でいちばん具体的に踏み込まれたのが、この領域です。
行政処分の対象として新設が提言されたのは、次の行為です。2026年9月10日時点では提言の段階であり、条文になっているわけではありません。
- 解約手続を不当に遅延させる行為
- 契約手続に比べて、合理的な理由なく過度に複雑な解約手続を課す行為
- 事実確認をせず、返品特約のみを理由に権利がない旨を告げる行為
- レスキュー商法において、表示価格と著しく乖離した高額契約の勧誘をする行為
- 契約前に工事などに着手して、原状回復を困難にする行為
この5つのうち、3つ目の返品特約の項目だけは、インターネット取引に限った話ではありません。中間報告書は、これをインターネット取引に特有の問題ではないとしたうえで、通信販売一般の規律として検討すべきだと書いています。電話やはがきで注文を受けている事業者も、同じ規律の対象に入る可能性があります。
2つ目の「契約手続に比べて」という書き方に注目してください。解約の複雑さそのものではなく、申込みとの落差が問われています。ウェブで1分で入会できるのに、退会は電話のみで平日昼間しかつながらない。この非対称さが論点です。
海外でも、問われているのは同じ落差です。米国では、加入と同じ方法で解約できるようにするclick-to-cancelルールが2025年半ばに手続き上の理由で裁判所に無効とされました。ただし、連邦取引委員会(FTC)は既存の法律で取り締まりを続けており、2025年にはAmazonが有料会員サービスPrimeの解約のしにくさをめぐって25億ドルで和解しています。
「契約手続に比べて」という書き方が実務で何を意味するのかは、係属中のUberの件を見ると想像しやすくなります。FTCは21の州とワシントンD.C.とともにUberを提訴しました。対象は有料会員サービスのUber Oneで、本人の意思によらない登録と、解約のしにくさが争点です。訴状が修正されたのは2025年12月15日でした。FTCの発表では、解約にたどりつくまで最大23画面・32回の操作が必要だったと主張されています。
申込みは数画面で終わるのに、解約は23画面。中間報告書が問題にしている非対称性を、そのまま数で示した形です。請求には民事の制裁金が含まれています。もっとも、これは訴訟の途中であって判決ではありません。自社の資料で引用するときは、その点を必ず添えてください。
欧州連合では、ダークパターンやサブスクの解約・更新のしにくさをまとめて扱う「デジタル公正法(Digital Fairness Act)」が、2026年10月から12月に欧州委員会から提案される予定です(欧州議会の立法追跡ページ・2026年8月1日時点)。まだ提案の前の段階です。日本の法案提出は早ければ2027年の通常国会と見込まれており、時期はおおむね重なります。国内向けの改修と海外向けの改修を、別々に走らせずに済む可能性があります。
では罰則はどうなるのか。中間報告書に、具体的な法定刑、つまり罰金額や懲役年数は書かれていません。広告場面でのダークパターンについては、行政規律による是正を基本とすべきだとされました。契約を取り消せるようにするといった民事上の効果の付与も、一般の取引への影響が大きいため慎重に検討すべきだと整理されています。
刑事罰に直接触れているのは1か所です。クーリング・オフに関する事業者の行為のうち、事実と違うことを告げる行為や、威迫して困惑させる行為に当たり得る悪質なものについて、特商法6条の禁止行為への該当性と、直罰の対象であることを明確化すべきだという部分です。返金の拒否や遅延については、単なる債務不履行に刑事罰を科すことが民事法と刑事法の分離との整理を要するとされ、行政処分の対象を明確にすることで対応する整理になりました。なお、法定刑の引き上げは「その他の指摘事項等」で委員の指摘として挙がったにとどまります。適格消費者団体による差止請求の対象にすることも、検討対象に入っています。
2026年8月28日には、さらに踏み込んだ方針が報じられました。ただし、ここから先は特商法の話ではありません。解約妨害の規制は、別の法律である消費者契約法の改正で進んでいます。サブスクなど継続して課金するサービスの解約を不当に妨げる行為を、法律で禁止する方向です。あわせて、国の認定を受けた適格消費者団体が、事業者に対して差止めを請求できるようにする考えが示されました。法案の提出は、早ければ2027年の通常国会が目指されています。
ここが、これまでとの大きな違いです。従来は、行政処分を受けるかどうかが事業者にとっての分かれ目でした。差止請求が使えるようになると、行政の判断を待たずに、第三者である団体が直接止めに来る道が開きます。処分の順番を待つあいだの時間が、なくなるということです。報道の詳細は日本経済新聞の記事(2026年8月28日)で確認できます。
解約妨害のほうは、消費者契約法検討会が2026年9月9日の第9回会合まで進みました。事業者の側から読むと、資料は要求を2段に分けています。上の段が禁止で、破れば差止めを求められる対象になります。下の段は努力を促すもので、守らなくても直ちに違反にはなりません。この線引きが、社内で優先順位をつけるときの物差しになります。
禁止に置かれたのは、うその告知、不確実な事柄の断定、申し出の拒否や不当な遅れ、その場から帰らせない行為、相手の家などから帰らない行為、そして健全な商慣習に照らして不当に解約を妨げる行為です。対象になるのは、物やサービスを継続して提供し続ける契約です。
一方、努力を促すにとどまったものが3つあります。契約から無理なく抜けられる方法を用意すること、解約の方法と条件を契約期間を通じて知らせること、自動更新の前に更新しない申し出の時期と方法を伝えることです。一律の義務にすると業種ごとの事情に合わない、という理由でした。ただし努力義務でも、消費生活センターや取引先から説明を求められれば根拠として持ち出されます。先に手を付けるのは禁止のほう、というだけの話です。
注目された解約料は、規定の作り直しに至りませんでした。資料には3つの案が並んでいます。立証の負担を事業者に移すA案、部分ごとに切り分けるB案、その両方を組み合わせる折衷案です。委員の間で共通の理解ができず、今回は現行の規定を残す判断になりました。第9回の配布資料は消費者庁のサイトで公開されています。
3段階のうち解約の段階が、いま実際にどうなっているか。2026年9月6日に、定期購入を扱う38サイトの法定の表記ページを数えました。解約の締切を書いていたのは3社に1社ほど、最低継続回数は0件です。第3段階への備えは、条文を待つ前に自社の表記を見直すところから始められます。集計の詳細は最終確認画面の表示義務チェックリストにあります。
よくある質問
Q1. 中間報告書が出ただけで、いま何かしないといけないのですか。
A1. 法的な義務が新しく生まれたわけではありません。2026年9月10日時点で、政省令もガイドラインもまだ存在しないからです。ただし、特定商取引法12条の6が定める最終確認画面の表示義務は、いますでにある義務です。まずはそこの点検から始めるのが現実的でしょう。
Q2. うちは実店舗が中心で、通販は一部です。それでも関係ありますか。
A2. 関係する部分があります。今回の中間報告書には、SNSのチャット勧誘や、レスキュー商法における高額契約の勧誘、契約前に工事などに着手する行為も含まれるからです。オンラインで集客して対面で契約する事業も、対象に入り得ます。
Q3. 罰金はいくらになりそうですか。
A3. 中間報告書に、具体的な罰金額や懲役年数は書かれていません。広告場面については行政規律による是正を基本とすべきだと整理されています。金額を前提にするのではなく、行政処分の対象になり得るかどうかで見ておくのが安全です。
Q4. 解約フォームをウェブに用意すれば十分でしょうか。
A4. 用意すること自体は前進です。ただ、中間報告書では、解約手続を不当に遅延させる行為や、契約手続に比べて合理的な理由なく過度に複雑な解約手続を課す行為が、行政処分の対象として挙げられています。フォームがあっても、送信後に何日も返答がない、引き止め画面を何度も挟むといった作りは、指摘を受けるおそれがあります。
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今回の特商法 改正の議論は、2026年9月2日にとりまとめられた中間報告書が出発点です。違反にあたる表示の中身を示すガイドラインの議論は年内にまとまり、関連法案は2027年の通常国会への提出が目指されています。ダークパターンの3カテゴリ、SNSチャット勧誘への規律、誇大広告のプラットフォーム削除要請、解約手続に関する行政処分の新設と、論点は広告・契約・解約の全段階にまたがっています。
備える順序は、広告、契約、解約の3段階です。広告の価格表示と口コミ・在庫表示を実態と合わせ、最終確認画面の6項目が読める形で置かれているかを確かめ、申込みと解約の手間の落差をなくす。いま点検を始めておけば、ガイドラインが出たときに差分を埋めるだけで済みます。
自社サイトの表示や解約導線について判断に迷う場面があれば、お問い合わせページよりご相談ください。現在の画面を一緒に確認しながら、無理のない優先順位を整理します。
この記事は、Webサイトの表示と解約導線の設計を手がけるアイソル株式会社が作成しています。消費者庁および関係団体の一次資料にあたって確認しました。最終更新: 2026年9月6日。